こんにちは。心理士の井上です。
前回は情動コントロールについてお話しさせていただきました。
脳内の中心部に位置する原始的な部位である“偏桃体”が、感情をつかさどっていて、額のあたりにある“前頭葉”が、その感情をコントロールする役割を担っていました。
偏桃体は哺乳類にとって、生きるための感情を生み出している、とても大切な部位と言えます。
その偏桃体の近くに“海馬”という、記憶をつかさどる部位があります。
今回は、この“海馬”についてお話しさせていただきます。
両手で耳をふさいだ時、手のひらにあたる部分が側頭葉です。そしてその奥に位置するタツノオトシゴのような形のものが海馬です。
普段経験する出来事や、様々な情報は“海馬”で10秒~20秒ほど保管されます。これを“短期記憶”といいます。
その中で、今後も必要であると海馬が判断した情報を、脳のいろいろな場所に移し、長期保存します。自分の誕生日や家族や友達の名前、自転車の乗り方などのことで、この記憶を“長期記憶”といいます。
必要なときに、保存された長期記憶を呼び出す働きの中心も海馬です。つまり、何かを“思い出す”ときにも海馬を使っているということになります。
この海馬に支障をきたすと、とても深刻な状態になることもあります。
例えば、認知症の一つであるアルツハイマー型認知症では、海馬の萎縮が一つの原因であるとも言われています。
海馬の萎縮は、“思い出す”ことを中心に様々な認知機能の低下につながります。
海馬がとても重要な働きをすてきれていることがわかります。
この海馬ですが、人の体の中でもとても特殊な場所でもあります。
脳が形成されるのは12歳くらいまでというのが一般的です。実際脳医学の世界でも、脳の神経細胞は加齢とともに減っていき、新しく生まれることはないと思われていました。
しかし、この海馬だけは何歳になっても、神経細胞が新しく生まれ(神経新生)、その体積を増やすことができることがわかったのです。
また、ラットを使った研究では、回し車を使って運動する機会を増やすと、海馬の神経新生が促進されるという結果が得られたそうです。
つまり、身体を動かすことによって、海馬が活性化されるということになります。
適度な運動は、脳科学的には記憶力の低下を予防するのに役立つということなのですね。
少しずつ過ごしやすくなってきましたが、お体にはご自愛ください。